2016年11月12日土曜日

ラプンツェルの消失(4)

「どこにもいませんねぇ、りっちゃん」
 奥野有亜(おくの ありあ)は、単に地下と呼ぶ『最下層居住区』の出身者だ。出自としては貧困層になる。彼女は真田家にメイドとしてやってきて一年にも満たない。
 大人しい娘で織愛と同い年の18歳だ。
「間違いなく、お嬢はここに居た。パパにぶん殴られてから部屋に閉じこもって一回も出てきてないはずでしょ」
 織愛はもっと捜すように有亜に頼む。

 少し困ったように、ふとんをめくったりして有亜は部屋の中を右往左往した。
 鈍くさくて焦りが見えない。彼女は律と同じ黒髪のストレートのロングで同じ髪留めをしていた。仲が良いから律と同じなのだ。というか律のほうが有亜に憧れて馬鹿みたいに真似ているのだ。有亜が髪型を変えれば律もまた同じように変える。身長と胸の大きさが違うだけで劣化コピーのようだった。律は有亜を姉のように慕っていた。有亜に近づこうとしていたのだろう。一番身近な大人として有亜のファッションセンスや化粧のやり方を学び取っていたわけだ。
 しかし、おっとりした有亜と比べれば、律は雑な性格をしている。外見的に同じようでも、律がすまし顔をしたところで有亜との見分けはつく。

「どうして奥野さんは部屋に居たの?」
 織愛はもう一度、整理し直す。茉那美と胡桃の二人がやってきてゲストルームで律とお喋りしているとき、律の世話係である有亜はこの部屋に居た。
 世話係なら常に律の近くに居るべきだ。
「幾原さんたちが一緒だったから、その隙きに掃除しちゃおうと思ってぇ」
「監視役でもあるんだから目を離すなってパパ上様から言われてるでしょ?」
「そうなんだけどぉ、気になっちゃってぇ」
 有亜は溜まった埃を拭きたそうに常にウズウズするようなところがある。どうもネジが抜けたような感じだ。コルルといい、胡桃といい、律の周りには不思議な感じの娘が集うようだ。

「りっちゃん可哀想。あんなに泣いて。頬も真っ赤っ赤で」
 有亜は窓の外を見て呟いていた。
「奥野さんが部屋を捜してる間にお嬢が出ていったってことはない?」
「ほぇ?」
「例えば奥野さんがバスルームを覗いている間に、ベッドの下に隠れてたお嬢がこっそり部屋を出ていった。とかね」
「念のためって言われたので、部屋の鍵は閉めてましたし、廊下には監視カメラがあるので…」
「それもそうね…」
 抜けているようで抜かりはない。織愛は自分もしっかりしなければと気を引き締め直す。

 幸晴に報告しておこう。律の捜索は事態の進展しないままだ。幸晴のほうに誘拐犯から何かコンタクトがあるかも知れない。
 織愛は有亜を部屋に残して、再度 階下に降りる。