2016年10月1日土曜日

密室のショートケーキ【推理】

「君が犯人だ」
「待ちなさいっ 違いますから! 言いがかりも甚だしいです!」


 里佳子せんぱいと恋乃葉せんぱいが激高している。いやどちらかと言うとヒートアップしているのは恋乃葉せんぱいか。

「わたくしは今日、買い物をしていたんです。それだけです」
「ずっとか? それだけじゃないだろ。やはり君が犯…」
「カフェでお茶したり! コスメを見に行ったり… してました」
「そうか、ならモデルルームには近づいてないわけだな?」
「もちろんです。ここに来る意味なんてないですから」

「今日の17時から19時までどこに居た?」
「…っ…。だから買い物…」
「どこでだ?」
「本屋さんです」
「どこの本屋だ? 電話して聞いてやる」
「ちょっと! プライベートに踏み込み過ぎじゃないですか!?」

 恋乃葉せんぱいは立ち上がって怒った。

「店の名前は言えないのかね?」
「とっ… っ… ぃや… 花の木書房だったかしら… もういいでしょ」
「………あぁ、もういい…」


 そしてピタリと追求をやめた里佳子せんぱい。にやにやとしてやったりの表情が怖かった。

「いや、もう一つだけ聞いておくことがあるな」
「…なんです?」

「ここのモデルルームの鍵はいくつある?」
「…スペアを含めて2本ですが?」

「こいつらに貸し出したのは1本だけだな。もう1本は誰が持ってる?」
「今日は… ですけど、念の為にわたくしが持っています… …は? 何が言いたいんです?」
「ということはセキュリティカードも持っているはずだな。鍵を持って最後にここを出たのは荻原沙智くんとは限らないわけだな?」

「…わ、わたくしがケーキを食べたと言うつもりですか?」
「いいや。日頃の玉高通信への恨みからケーキは捨てたと考えるのが妥当だな」
「そんなことするわけないでしょ!」
「ああ、そうだったな。すまない。生徒会長とあろう者がそんなことしないよな」


 私の目の前で火花が散っていた。
 もう怖くて顔を上げられなかった。バチバチと音が響いて、他に音といえばバケツ型のお掃除ロボットが動いているだけ。息の詰まる睨み合いが続いた。

「で、動機は何だね?」
「認めてませんから。犯人だなんて名誉毀損です。訴えてやろうかしら」
「生徒会長が認めれば終わることだろう?」
「でもまだ… あなたの弟さんが残っていますが…?」


「コイツはずっと私と一緒に居た、以上だ。響 和毅、何か言うことはあるかね?」
「…!」

 和毅くんは突然 指名されて目をギョロつかせた。彼については容疑者リストからかなり外れているから何か新証言が出てくるとは思えない。
 彼はゆらりと立ち上がって、血走った目で私を見た。何か特別な感情を抱いているような目だ。怒り…? 憐れみ…? 私にはそれが何なのか解らない。

「…も」
 久しぶりに口を開くので喉に潤いが足りないらしい。
 どうして私を見るのだろう。そう言えば会う度にいつも見られてる気がする。私のことが恨みがましいといった様子でいつも挙動不審な態度だった。恐怖に満ちた目。幽霊でも見るような目。いつも緊張した様子で、よっぽど私のことが苦手なのだろうと思う。
 場の空気に緊張感が増していく。
 ゆっくりと口を開いて。

「もう帰りたい」
 と、和毅くんはぽつりと答える。

「決まりだ。犯人は生徒会長にしよう」
 里佳子せんぱいは、さっきから視線を恋乃葉せんぱいに固定していた。

 これで混迷してきたことには違いない。
 ケーキを食べるにしても捨てるにしても、消失させるためにはこの部屋の鍵を持っていることが必須条件だ。今のところ鍵を持っているのは、沙智と恋乃葉せんぱいの二人。
 しかし最後にここを出た可能性の高いのは沙智のほうだ。17時だと明言しているのだから間違いはないとして、恋乃葉せんぱいが19時までにここを訪れたかどうかで話が変わってくる。
 私は沙智を疑うなんてできないから、必然的に恋乃葉せんぱいの顔をちらりと見てしまった。

「ち! 違いますよ!?」
 ではなぜ恋乃葉せんぱいは慌てた表情をしているのだろうか。
 結局のところ里佳子せんぱいに押し切られる形でケーキを消失させたのは恋乃葉せんぱいだということになった。
 では、ショートケーキはいったいどこに消えたのだろう。

「終わったー 家帰って寝よーっと」
 たまきがソファを勢い良く飛び降りる。
 グシャリとバケツ君の頭が潰れる。
 うぃ〜…ん
「あ」

「…」

 お掃除ロボットがどういう仕組で動いているのかは知らないけど、中にゴミを溜めておくスペースがあるのは知っている。顔の真ん中が開いて中身を見せてくれる。だけど故障したらこんなに高速で回転するなんて想像の範疇外だった。
 ぷしゅるるるるるる…
 中に入っていたゴミを高速で吐き出してソファを汚すとは私は夢にも思わなかった。
 そしてゴミとしてそれを回収する能力があることに私はとても感心してしまった。

 潰れたショートケーキがそこにあったのだ。

 よく解らないけどケーキはゴミとして回収されていたようだ。ケーキの残骸が飛び散って私たちは盛大に生クリームを浴びるのだった。
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