2016年9月24日土曜日

密室のショートケーキ【氷結】

「私は…」
 何をしていたのか思い返してみる。
 私は私が犯人でないことをよく知っている。そもそも里佳子せんぱいに依頼されたものを、自分で手づくりしてきて、自分で食べ尽くすなんてしない。

「昨日の夕方にカードと鍵を借りてケーキを届けました。冷蔵庫に仕舞って颯爽と帰りました。だから昨日の夕方から今日の19時まで私は一度も部屋に来ていません」
 変に疑われないよう、言質を取られないように考えながら喋る。

「君たちの話は全員、食い違っているようだな」
 里佳子せんぱいが言う通りに各々の証言に不審点がある。

「それなら誰かが嘘をついてると言うわけですね」
 恋乃葉せんぱいが指摘する。

「黙っててくれないか、生徒会長。君の出る幕はないんだよ」
「…な…っ」


 里佳子せんぱいは恋乃葉せんぱいが何かを言う前に凍てつくような視線を私に向けてきた。
「いいか、荻原絢香くん。心して答えろ」
「はい」
「昨日の夕方から今日の19時になるまでここには来ていない。間違いないな?」
「はい、間違いないです」
「じゃあ、たまきは何だ? 今日、昼間に君と一緒に来たと言っている。いつ来たと思う?」
「たまきが嘘をつけるとは思えませんが、寝ぼけて誤解している可能性はあると思います」
「というと?」

「はい、昨日の夕方に私の後をつけて侵入したんですよ、きっと。マンションの玄関ロックはここの住人の方の後をついていったか何かですり抜けて、階段のところで隠れていたんです。私が鍵を開けて入っていくのを見て後から部屋に侵入した。私が冷蔵庫にケーキを入れている隙にクローゼットに隠れたんですね、たぶん。時間については、昨日の夕方と今日のお昼を勘違いしてるんだと思います。クローゼットの中に居たのは本当だと思います。ホントにずっと寝ていたんでしょう」


「どう思う? たまき。異論はあるか?」
「さすがにあたしでも昨日の夕方から今日の夕方まで寝るかなー…。でも… …そう言われるとそんな気がしてくるけど」
「お前、夕方と昼の区別はつくのか?」
「そっ そんなのわかるよっ! …でも確かにクローゼットの中だと時間の感覚 狂ってるかもね」

「ふむ…、まぁどっちにしてもたまきは犯人から除外して構わんだろ」

 里佳子せんぱいは改めて私たちを見回していた。

「でも… あっちゃんに鍵とか渡したっけ、わたし」
 沙智が小声で余計なことを言う。場が混乱するだけだから慎んで欲しいものだ。
「さっちゃんに貸してって言って、手渡しでもらったよ。昨日の昼ぐらいかな」
「あぁ… 昼ごはん食べて一番眠たいときかな。…あれ昨日のことだったのか」

 沙智は納得してくれたようだ。

「もういい。今のところ犯人として有力なのは荻原沙智、お前だ」
「あハイ…」
「お前でいいな?」
「あ… ハイ」

「よくないですよっ せんぱい」

 私はお尻を浮かせて反論する。
「さっちゃんはこんなことする娘じゃないです。それにまだ、せんぱいたちの行動を聞いてませんっ」
「私かね? 19時まで一切この部屋に寄ってないんだがな」
「それでも一応お願いします」

「私は君のつくったケーキが食べたくて仕方がなかった。昨日の段階で食ってやろうと思ってモデルルームに侵入を考えたが良心が働いてやめておいたよ」
「今のところ、せんぱいが一番 動機があるわけですね」
「セキュリティがあると気づいて、やむなくコンビニのケーキを買って帰ったな」
「良心ってセキュリティのことですか?」

「今日はずっと町をぶらぶらと取材していた。和毅を連れてな。クリスマスの雰囲気を写真に撮ったりしていたよ」
「まさか、ずっとその格好ですか?」

「ぬふふっ だったら何だ?」
「前にクリスマスが疎ましいって言ってませんでしたか?」
「あぁ、言った。浮かれすぎだと思うよ。私のは町の様子を世に発信する取材活動の一環さ。個人的な感情と仕事を一緒にしてないだけだ」
「そうですか…」

 私は目を逸らす。どうしたって屁理屈には勝てないと思ったのだ。

「さぁ どうする? 私には動機が満点だぞ。だが準備はお前たちにすべて任せていたからな。ケーキを奪うチャンスはなかった」
「奪うつもりだったんですか…」


 恋乃葉せんぱいが口を開く。
「なるほど。あなたが何か仕掛けたのですね、里佳子さん。昔から本当に意地汚いことばかり。どんなトリックで…」
「黙っててくれないか、生徒会長」

「…な…っ わたくしはゲストで呼ばれて来ているんですよっ?」
「部外者じゃないのか」
「関係者です!」

「ふふっ そういうことか… それなら… 生徒会長も容疑者の一人というわけだな」
「は…? んなっ??」
「話してみろ。身の潔白を証明するといい」
「何なんですかっ そのもう犯人みたいな言い方!」


 私は下を向いてやり過ごす。里佳子せんぱいは私と沙智の天敵であるばかりでなく、恋乃葉せんぱいにとっても仇敵なのだと思った。幼なじみという因縁を持った二人だからこうもいがみ合えるのだろう。
 私は巻き込まれた恋乃葉せんぱいに同情する。
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