2016年9月10日土曜日

密室のショートケーキ【煉獄】

「そんなことをして何の意味があるのです?」
「いえ… 誰かを疑うつもりはないんですけど、一応… 事実関係の整理を…」
 私は呆れている様子の恋乃葉せんぱいにそう答えていた。
 沙智の身の潔白につながるか解らないが、みんなの行動に不審な点がないかを確認するのだ。そうすれば沙智以外にも不審者が浮き彫りになるのではないかと思う。

 窓の外でしんしんと雪が降り積もる音が聞こえてきそうだ。
 微弱な暖房だけど心なしか暑すぎるような気がする。じとっと汗が滴る。
 リビングには大きな水槽があって熱帯魚が周遊していた。ダークグレーのじゅうたんに深いブラウンのオーダーメイドカーテン。質のいい柔らかい照明。
 カサリと物音がして、お掃除ロボットが観葉植物の影から顔を出した。バケツを逆さまにしたような外観で、愛くるしい顔のデザインが施してある。恋乃葉せんぱいに聞いたら花巻不動産のマスコットキャラだと教えてくれた。
 有名メーカーとコラボして作った最新式お掃除ロボットだそうだ。恋乃葉せんぱい曰く「どんな細かいゴミでも、大きめのゴミでも自動で吸い込んでくれますのよ!」と自慢気に聞いてもいない機能説明までしてくれたのだ。
 私は聞き流していたけど沙智は目を輝かせて聞いていた。基本が怠け者の妹だから自動で掃除してくれることに食いついていたのだ。
 さすがに高級なモデルルームだけあって未来的というか、非現実的な空間だ。

 場違いなバケツキャラの顔が今は疎ましく思えた。
「さっちゃん、今日あったこと。素直に全部 話してみて。犯人じゃないって、みんなわかってくれるから」
 私は沙智の肩を強く揺らしていた。
「うん… わたしがパーティーの準備でグッズを持ち込んだときには、……ケーキはまだありました」
 沙智は静かに語り始める。

「買い物してここに着いたのが17時くらい。荷物を置いて、中に居たのは1分くらいかな。花巻先輩から預かったセキュリティカードと部屋の鍵でちゃんと施錠はしました。それから後はコーヒーショップで時間を潰して19時前にあっちゃんたちと合流しました」
「ケーキはどこにあった?」
「はっ ハイ… え… と、あの冷蔵庫に…」
 沙智は里佳子せんぱいに凄まれて身体を強張らせた。私は沙智の言葉に違和感を覚える。

「荷物を置くだけと言ったな。1分程度の滞在時間でしっかり冷蔵庫の中を覗いたわけだな?」
「そう… です」
 沙智がそう言うのならそうなのだろう。私は彼女を疑う必要なんてない。
 だけど里佳子せんぱいは冷蔵庫をわざわざ覗いた沙智を怪しんでいる。

「つまり我々が集まってくる19時まで、この部屋は無人だった。侵入者があれば警備会社に通報がいくはずだ。誰も居なかったはずなのにどうしてケーキが失くなっていると思うね?」
「わ… わわわかりません」
 沙智は早口に告げる。

 ぎすぎすとした空気だ。
 このままでは沙智が危うい。家や二人きりのときだと沙智は私に生意気な口を利くけど、外ではこんなに借りてきた猫のようだし、私以上に暗い性格になる。内弁慶でバカの妹を姉として守ってあげなければと思うのだ。

「無人じゃないよ、せんぱい」
 たまきが勢い良く起き上がる。

「何だ、居たのかお前」
「ずっと居ましたけどっ」
「無人じゃないとは聞き捨てならんな」
「だって、あたしはずっとここに居たからねー」
 たまきは友人の窮地を救ったと思っているのか、里佳子せんぱいに対してドヤ顔だった。憎まれ口を叩いたりするけど、たまきは里佳子せんぱいのことが大好きなのだ。
 誰もが顔を強張らせているのに、たまきだけは弛緩していた。

「…」
 みんなは耳を疑っていた。
 今まで無人だと思われていた部屋は実は有人だったらしい。もしたまきが部屋にずっと居たなら、密室の前提が崩れることになるのだ。
 部屋の空気がピリリとひりつくようだった。
 私は緊張する。
 もっと早く言えよと言わんばかりの顔をみんなしているんだろう。私はそれを見るのが怖くて顔を上げられなかった。
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