2016年9月17日土曜日

密室のショートケーキ【土葬】

 トナカイの着ぐるみに赤い玉を鼻にくっつけている。どうしてたまきは身体についた汚れを擦り付けるようにして高級マンションで寛げるのだろう。

「ずっと居たんだな、これが」
 たまきは得意気にニコニコしているが疑わしい言動だ。
 あり得ないのだ。セキュリティカードでロックされた部屋の中で、何か動いているものがあれば赤外線センサーに引っかかるはず。たまきはそれを知らないのだろうか。
 それとも沙智をかばっている…?

「荻原沙智くん、君が来たときコイツを見かけたか?」
 里佳子せんぱいが沙智を見て、たまきのことをあごで指した。
「いえ… 見かけなかった気がするけど…。全部の部屋を見て回ったわけじゃないし…」
 モデルルームは3LDKでバスルームやベランダも考え合わせると確かに隠れられる場所は多い。

「セキュリティを作動させて戸も施錠して帰ったなら、コイツが動けば異常を察知して警備会社がやってくるだろう? たまき、本当にここに居たのか?」
「居たってばー! ずっとね」
「ベランダにでも居たのか?」
「中に居たよ」

「鍵は? どうやって入った?」
「あっちゃんと一緒に来た」
「荻原絢香くんとか…。そのことはまた後で聞く」

 里佳子せんぱいは私のことを一瞬だけちらりと見やった。

「部屋のどこに居たんだ? なぜセキュリティが反応しない?」
「クローゼットの中だね。セキュリティ? はよくわかんない」

 北側の暖房のない小部屋だ。

「何時から居た?」
「お昼くらいからずっとかな」

「19時にみんなが集まったとき、…お前 居たか?」
「みんなが集まったときはー… え? せんぱいっ あたしが居たか覚えてないのっ?」
「記憶にない」
「ひどっ」


 私は見かねて口を挟むことにする。
「里佳子せんぱい、たまきは19時の段階では居ませんでした。後から合流したはずです。でも… 外からやってきたって感じではなかったですね。部屋から下のロックを外してないのにマンションの玄関も通過してますし…」

「ということは本当にクローゼットに隠れてて、19時にみんなが部屋に入った後でクローゼットから出てきたわけか?」
「驚かせようと思ってね」


 その目論見は失敗している。
 誰も驚いてなかったし、いつの間にか合流してたんだくらいの感覚だ。トナカイの衣装で現れたけど馴染んでいたので違和感もなかった。

「生徒会長、クローゼットの中なら赤外線は反応しないのか?」
「確かにクローゼットの中なら反応しない…」

 恋乃葉せんぱいは、しかし納得はいかないという表情だ。
「ですが…… どうやって入ったのでしょう? 少しでも有機的な何かが動いていれば反応すると思うのですが?」

 私はたまきがケーキを食べたのだと思っていた。
 だが、無人の部屋を歩き回ればセキュリティに引っ掛かるはず。本当に私たちを驚かせるためにクローゼットでジッとしてたのか…。

「お前、一人で何をしていたんだ?」
「寝てたんだよ」
「チッ」

 里佳子せんぱいは無駄なことを聞いてしまったと後悔しているようだ。

「ちなみにケーキはどこにあったと思う? それ以外にも何か気づいた点はあるか?」
「冷蔵庫じゃないの? あたしケーキがあるなんて知らなかったよ。あったら食べてたかもね」
「だろうな」
「あとは… 今日スカートで来たんだけどお尻が汚れてたなー。冷たかった。外で雪で転んだからだね、たぶん。着替えがなかったけど、着ぐるみ持ち込んでたからよかったー」
「関係のない話はしなくていい」
「言えって言うから言ったのにー」


 たまきは嘘をつけない。
 顔に出るタイプだから嘘をつけばわかる。彼女の証言には嘘はないのだろう。
 セキュリティの件から着ぐるみに着替えたのは部屋の外か。ケーキの存在も恋乃葉せんぱいとたまきには内緒で進めていた話だから知らなくて当然だが…。本当に知らないのだろうか?

 たまきが部屋にずっと居たという事実は彼女がケーキを消失させた可能性もあることを示唆していた。しかしセキュリティのことを考慮するとたまきは身動きしてないはずだ。センサーに引っ掛かってないということは、本当にたまきはずっと寝ていて、部屋に居なかったも同然だ。

「振り出しに戻ったな」
 せんぱいが私を見る。次は私の一日の行動を説明する番だと言っているようだ。

 テーブルの向こうで和毅くんが私のことを心配そうに見ていることに気づく。心配… いや不審? 期待? 怒り? 私に何を思って顔を上げたというのだろう。
 私の頭に不穏なもやもやがかかる。手汗が滲んだ。焦燥が募っていった。
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