2016年9月3日土曜日

密室のショートケーキ【慟哭】

 これは誰も居ないはずの密室だったこの部屋から、いかにしてショートケーキを消失させたのかを明らかにするお話だ。
 実にくだらない、生産性のない話し合いである。

「さぁ どういうことか説明してもらおう」


 私はその日の夜、恋乃葉せんぱいのマンションで行われる壮行会に呼ばれていた。この表現は正確でない気がするけど、当の里佳子せんぱいがそう言っているのだから間違いではないのだ。

「犯人は君だろ? 荻原沙智(おぎわら さち)くん」
「…は、い」

 沙智の黒目が高速で左右に泳いでいるのを見て、居たたまれなくなる。私は隣で震える沙智の肩をそっと抱いてやった。
 とてつもなく広いリビングルームの真ん中にソファがU字型に並んでいて、約一名を除いて深刻な面持ちの参加者が揃っていた。
 ベランダ側のソファに私と妹の沙智が座っている。向かいのソファには沙智の親友であるところのたまきが、一人で間の抜けた顔で寝転んでいた。
 中央のローテーブルにはお菓子の山と冷めたローストチキン、未使用のロウソク、使用済みのクラッカーが置いてあった。

「待ってください。それは決め付けではありませんか?」
 U字の底の部分、真ん中に座っているのは家主の花巻恋乃葉(はなまき このは)せんぱいだ。

「最後にこの部屋を出て、今も鍵を持っているのは彼女しかない。だったらもう犯人で決まりだろうと思わないのかね?」
 そして対面式のキッチンの側、ダイニングのテーブルについているこの偉そうな人は、響 里佳子(ひびき りかこ)せんぱい。玉高通信の部長で壮行会の主催者である。
 さらにテーブルの向こう側に唯一の男性参加者、里佳子せんぱいの弟、響 和毅(ひびき かずき)くんが一人で膝を抱えて俯いていた。挙動不審に目をきょろきょろさせている。連れてこられ、女子に囲まれてさぞ迷惑なんだろうと思う。

「彼女の言い分を聞いてからでも遅くありませんよ」
「違うというのなら荻原沙智くん、釈明してみたまえ」

 里佳子せんぱいがミニスカサンタの衣装のままベンチシートに片足を上げた。左足は床に着いたままで、右足を抱えている恰好だ。赤いスカートの裾から下着が見えそうだ。
 ねっとりとした、いやらしい笑みで沙智を睨めつける。

「…え …と」
 沙智は地震やオバケより里佳子せんぱいのことが、この世で一番怖い存在だと思っている。私も同意見だ。

 向かいのたまきは半分目が閉じて眠そう。友だちを助けようといった様子はまったくない。私もどう擁護すればいいか糸口が掴めないでいる。
 私は自然と涙が零れていた。我が妹を犯罪者扱いだなんて許せない。里佳子せんぱいへの反論をするために、この部屋で何が行われたのかを解明する必要があると思った。

「あの… 皆さんの今日一日の行動をつまびらかにしませんか?」

 私はぼそりと言い放つ。
 何を言い出すのだという、みんなの不審な目が私に集まった。仕方ないことだ。私がピントのズレた変なことを言い出すのは今に始まったことじゃないし、そういう目で見られるのに慣れてる。でも沙智を悪者にしておいたままではいけないと思った。
 沙智がケーキを一人で黙って食べてしまう人間ではないと証明したいだけだ。
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