2016年8月13日土曜日

絶望の世界と希望のインスタントラーメン

 どうしたら地球に帰れるのだろう。
 早く元の世界に戻りたい。

「教えてあげよっか?」
「いい…。黙っててくれる?」

 状況は絶望的だ。
 沙智は長い間うずくまっていた。同じ姿勢のままで時を過ごす。

 ずっと考えていた。絶望に囲まれた世界では誰も助けもやってこない。残った食料と水は僅かだ。沙智は立ち上がることはできない。
 加えて外敵はもうすぐそこに迫っていた。これでは迂闊にトイレにも行けない。何もかもが閉塞的だ。

「もうすぐインスタントラーメンが食べられるでしょう」
「…何? 予言?」

 絶望を感じているのに、たまきに危機感はない。

「その前に敵に捕まるでしょう。猿は人間の言葉を話して怖いし、結局のところ地球なのね。悪いのは全部人間でした。めでたしめでたし」

 たまきは冗談交じりに預言者か占い師のマネをしていた。何もない空間に手を差し伸べて、水晶球でも見えているのだろうか。ワケが解らなかった。

「暇なら帰ったら?」
「このCMソング知ってる?」

 しかしたまきは寝転がって歌を唄い始めてしまった。ステーキが空を飛んでいるとかそんな内容だ。最近よくテレビCMで流れていて、学校でも人気だ。
 いきなり話題を変える奴はムカつく。
 沙智としては迷惑に思う一方、たまきの危機感のなさに救われている部分もあった。

「人生幸せそうでいいね。何も考えてない人って憧れる」
「ステーキにライドオンしてると食料に困らな…、え? なに?」
「…何でもない」
 沙智は膝を抱えてジッと耐えた。

 今に助けがやってくるかも知れない。むしろそうじゃないとおかしい。物語の主人公はこんなことで命を落とさない。脇役が死ぬのは仕方ないがハッピーエンドじゃないなんて、沙智は納得がいかなかった。どんな状況でも立ち向かわなければと思う。

 ちらりとたまきを見る。
「どっちかというと脇役はたまきだよね?」

「えー… まぁ… …さっちゃんが主役ならそうだねー。でもあたしから見たらさっちゃんが脇役になるんだよ?」
「たまきの人生の主役と脇役の話はしてないよ。映画だったらの話。女優として出るならたまきは主役じゃないよねって話ね」

「…えーと、だったらさっちゃんも主役になれないよねー。学芸会んときは“野垂れ死んでる盗賊”の役だったもんねー」
「昔の話もしてない。私は演技向いてないもん。見るほう専門だし」

「主役やらないなら あたしがやってあげよっか?」
「私の人生の主役の座を奪おうとしてるの? しばらく黙っててくれる?」

 沙智は集中して考える。

 どんな結末を迎えるのだろう…。 
 しかし、たまきの予言通りに映画のクライマックスシーンでその惑星は実は地球だったと明かされるのだった。
 悪いのは全部人間なのか? 伏線なんか、あったっけ?
 沙智にはよく解らなかった。
 長く旅をしていた結果がこれじゃ救われない。
 さすがに昔の映画だ。

「ね? 言ったとおりっしょ?」
「黙っててって言ったのに… オチ喋ってたんだね」

 部屋を明るくしてテレビの電源を切った。その映画を見終わった感想は、空飛ぶステーキの変なCM曲のことしかなかった。

 沙智は立ち上がってトイレに向かう。
「今度オチ喋ったらビンタするから」

「予言はもう一つあるよ? あたしお腹すいたんだけど当たるかな?」

「当たると思う?」
「じゃ、こっそり持って帰るから、この予言も当たりだね」

「コソドロっ。悪いのは全部たまきだっ」

 沙智はようやく元の世界に戻ってきた気がした。