2016年4月23日土曜日

怪盗ロマンスは恋をしない ⅵ

「君のものだろ?」
「え?」
 私は自分のかばんの中身を確認した。言われてみればスマートフォンがない。当たり前だ。響先輩の差し出した手には私のスマートフォンがあるのだから。
「その様子だと落としたことにも気づいてなかったようだな」
「あ… ありがとうございます」
「君の持ってきたネタだけどね、記事にはできなかった。すまないね。また何かあったら提供してくれたまえ」
 響先輩は私の差し出した手にスマートフォンをぽんっと収める。
 どこで落としたんだろうと考えている私を置いて、話題は次に移っているようだった。

 その日の帰り道。私がバス停で待っていると響先輩が突然 隣に座ってきた。ベンチには私と先輩の二人。他には背広の男の人と同じ学校の見知らぬ女生徒だけだ。
「じゃあ」
「あ… はい… え…?」
 私は不思議に思って聞いてしまう。
「せんぱい、あの… 絵の件は…」
「ん?」
「すいません、記事にできなかったって… 絵は見つからなかったってことですか?」
 私は小声で話す。
「見つかってない。見つかってないし記事にもできない」
「それは、まだ取材を継続しているということですか?」
「あらかた終わってるが?」
「取材が終わってるのに、記事にはできないと言うことですか?」
「さっきからそう言ってるよ。これには事件性がないからな」
「え、でも盗難って…」
 私はさらに小声になるが先輩は音量を調節しない。
「知りたいのか?」
「その… そういうわけじゃ…」
「そうか。記事にできないのは君のためでもある」
 響先輩は食い下がる私を見て何か思案しているようだ。
「私の?」
「そうだ、君だよ。他の誰でもない君だ」
「はぁ」

「怪盗ロマンスとは君のことだよ」

「…え」
 私はあまりの言葉に我を失った。
「まあそういうことさ。だから記事にしても おもしろくないのでね」
「…え? どういう…」
「君は無自覚なんだろ?」
「…?」
「ただの悪ふざけの結果、君は怪盗ロマンスに仕立てあげられた。それだけのことだ」
「私が…?」
 私がいつどうやって絵を盗んだんだろう? 私にはできそうにない。そもそも有栖川さんの絵にも興味なんてない。
 私は響先輩の言葉を静かに待つ。