2016年4月2日土曜日

利息はスマイルで

 タマは私に向かって手を合わせていた。
 出っ歯で丸メガネの少年だ。私に向かって深く頭を下げる。湿気った地元の駅の片隅で不可解な行為だと思った。
「私はお地蔵様じゃないんですけど?」
「そこをなんとかぁ…」

 私はため息をつく。大概のことは了承してきた。長い付き合いだからだ。
 タマは私の一年後輩。人となりはもうこの通り、誰にだってモノを頼むのが彼のスタイルだ。自分は何もしないのが流儀なのだ。
 この少年とは小学校の頃からご近所同士。幼なじみと言えばまだ聞こえがいい。ただの子供の頃の知り合いでしかない。だが、腐れ縁で結ばれた絆は切ってもなかなか切れないものだ。
 何度叱ったことだろう。

「親父の店が立ち行かんくなって、俺も、もう他に頼めんし
 タマがそう言って私が工面してきた借金総額はなんと蓄積されて10万円。生活費の面倒やお菓子を買うお小遣いもひっくるめて結構な金額になっていた。

「そうですか…」
 少しずつ返してもらってはいる。100円程度の微々たる金額を毎週のように渡しに来るのだ。もう子供の頃のように一緒に遊ぶこともないのに、それだけがタマとの接点と言っていい。
 完済にはほど遠い。利息は計算が面倒だからもらっていない。もういくら返してもらったのかもよく覚えていないな。
「今度はちゃんと返す算段もある。バイトして月7万。その中から少しずつさぁ…」
 タマはときどき、本気を見せてボーナス返済をしてくることもあった。そういうときは私も捨てたお金が空から降ってきたと思うことにしている。
「まぁ普通程度に信用はしてるけど…」
「ホントっ?」
 タマは可愛らしい顔で笑った。彼はちょーだいのポーズで身体を傾ける。
「ありがとっじゃあ!」
「まったく…」
 憎めない笑顔のできる人は羨ましい。というかずるいよね。

「ちょっと待ってっ。学校はどうするの? 両立できるの?」
「ああ、まだ大丈夫。計算はちゃんとしてる」
 私はそれとこれとは別だろうと思う。ちゃんと計算できてないからこその現状だろう。
「行き当たりばったりは計算って言わないよ」
「違うんだよ。聞いてよ。計算に多少狂いはあったけどトータルで考えてさ… 経済学的に確率論で考えると…」
「何の話?」
 もう陽が暮れる。私もバイトに行く時間だ。

「でもね、今日は持ち合わせないから、次に会ったときお金は渡すよ」
「あー… いやー… 今要るんだ。ほんの少しでいいよ。取り立て屋が来るんだ」
 もう何がどうしたからお金が必要だという話は100通りは聞いてきた。ついでに返済計画も100通り聞いているし、返済計画が破錠した事実もだいたい100通りは聞いた。

「怖いんだよぅ。取り立て屋のその先輩さぁ」
「私は怖くないのか?」
「とっても寛大、慈悲のあるできた人と思ってるよぅ」
「塵も積もってんのよ。こっちだって」
「わかる。わかるよぅ。でも…」
 歴史は繰り返すし、バカは死んでも治らない。

「世の中腐ってるけど、俺は腐らずやれるんだ」
「あぁ、わかった、わかったから」
「わかるよね、そうだよね。さすがぁ」
 真理が見えただけだ。
 タマはどうせ全額返済なんて無理だろうし。
「お札一枚ね。これ限界」 
 5千円札を渡すと彼は飛び上がる。

「ありがと
「じゃぁ、またね…」
 私はどんなに渋っても最終的にどうせ貸すんだろうし。
 100円ずつでも返してもらえるなら、会う理由ができるんだ。
 絆なんて切ったところで、私のほうからまた繋ぎにいくのだし。
 こっちのバカも死んでも治らないだろう。