2016年3月19日土曜日

怪盗ロマンスは恋をしない ⅱ

 響 里伽子は有栖川の前に突如 現れる。
 有栖川は撥ねた髪を撫でつけながら階段を降りていたところだった。思わず足を踏み外しそうになる。
「うわっ」
「君が有栖川 花くんだね?」

 里伽子は踊り場で足を止めて有栖川の行く手を阻む。
「何ですか? 急に…」
「君に興味がある」
「えぇ!?」

 有栖川が抱えているスケッチブックを落としそうになった。
「な… な… 何を…」
「話を聞きに来た。手間はとらせない」
「はぁ」
「設問は3つだ。一つ目、消えた絵は何が描かれていた?」
「消えた絵? あなたがあっちゃんの言ってた人? んーとシュールレアリズムというかだまし絵というか、芸術は爆発だみたいな勢いの絵っすね」

 有栖川は壁際にもたれ掛かるように避難しながら答えた。
「それで?」
「それでって言われても… んーと部屋の中が水槽みたいに水で満たされてて金魚と人が泳いでる変な絵かな?」
「二つ目、それは君が描いたのか?」
「もちろん。何であたしの描いた絵だけが消えたのかなー。文化祭までもう時間がないってのに…」
「三つ目、怪盗ロマンスとは何者だ?」
「さあ? 初めて聞きました。そんな名前の輩は。最近はいろんなところで出没してるみたいですけどねー」
「そうか、ありがとう。わかった。もう聞くことはない。行っていいぞ。君は自由だ」
「はぁどうも…」

 有栖川は不思議そうな目で里伽子を見ながら通り過ぎていく。里伽子は意に介せずどこ吹く風で、有栖川のことは忘れたようにさっさと階段を登っていった。


「先パイひどいっ あたしのこと置いてけぼりなんてっ」
 たまきが擦り寄ってきたので、里伽子はそれをするりと躱してから部室に入った。
「先パイっ」
「たまき、宿題は終わったのか?」

 里伽子はつかつかといつもの定位置であるパイプ椅子に腰掛けた。さっそくノートパソコンを起動させている。
「終わってません!」
「何をしている?」
「ゲーム!」

 たまきは開けっ放しのドアを閉めて戻ってきた。
「たまき、これから忙しくなる。とっとと宿題は終わらせろ。記事にするかはわからんがいいネタが入ったからな。アシスタントも入れる必要があるだろうな」
「先パイっあたしががんばるってば」
「たまきは宿題をやれ。進級できなくなる」
「大丈夫です!」
「とにかくやることが多いぞ。怪盗ロマンスとやらの情報を集めるんだ」
「あ、例の美術部員に会ったの!?」

 たまきは先日のミーティングで聞いていた萩原絢香が持ち込んだネタのことを思い出した。
「あぁ、さっき会ってきた。実に興味深い」
「それはあたしよりも!?」
「そうだな、今のところ」
「ショックだ」
「彼女はウソをついている」
「へぇ」

 たまきは携帯ゲーム機を手に取る。
「ということは何かを隠してるんだろう。それを炙り出そう。おもしろい記事になるぞ。フッフッフッフッ」
 里伽子の妖しい笑みが静かに響き渡った。