2016年2月27日土曜日

でも運命までは共にしたくない

「どっち行く!?」
「どっちって言われてもなぁ… ほんとにこれで行くの?」


 二人でどこまで行けるだろうか。
 それは素朴な疑問から始まったことだ。

 たまきが走り出す。

「ちょっと待ってっ…」
 どうして彼女はいつでも全力で走れるのだろう?

 沙智は風を感じていた。初夏にしては冷たい風だ。
「信じてるからね! さっちゃん!」
 たまきが柄になく思いを語る。そんなときはだいたい雨が降る。今日も湿り気を帯びた空気で満たされていた。
 沙智を不安にさせる。

 不安定なまま、たまきに付き従うしかない。

「さっちゃんの行きたいところに行くから!」
「じゃあ止まって」


「イヤだ。まだまだこれからじゃん」
「生きた心地がしないんだけど…」


 たまきが遊びを思いつくとき、沙智は大抵おもしろくない。付き合わされているというのが正しいだろう。今だって沙智から見ればおもしろくもなんともない。

「この間のテストさ。地名がちんぷんかんぷんでー、インドがどこにあるかわかんなくてさー」
「インドなんてわかりやすいところにあるのに」

「じゃ、インドいこっか?」
「一人で行ったら? 人生変わるかもね」

「国内旅行がいいな!」
「じゃあ九州とかいいんじゃない? ちなみに9番目の県はわかる?」
 

「一つもわかんないよー!」
「そっか… 出す問題を間違えたわ」


「あっ博多だ。合ってる? 合ってるよね?」


「もうすぐ十字路だからね。気をつけてっ」
「うん。スピードアップだね!」


「いや、いったん止まって!」

 沙智はいつでも跳び降りる覚悟ができていた。いざとなればたまきを見捨てよう。そう思う。

「左 行って左! 右に反れてるって! まっすぐ進んでよっ
「なんかスイカ割りみたいだね!」


 風が吹いた。
 逆風でブレーキがかかる。

「ここから下り坂になってるから止まって。危ないからいったん降りるよ」
「わかった。立ち漕ぎしていい?」
「バカか!!」


 スピードを上げていく。
 たまきは力いっぱい自転車を漕いでいく。

 二人乗りの自転車は風を切って加速する。

 これ以上、信頼やテクニックでカバーできるとは思えない。沙智が後ろからたまきの目を覆い隠して、たまきが自転車を漕ぐ。
 危険で不毛な遊びだ。

「止まれ!」
 跳び降りるには少し怖いスピードだ。
 沙智はたまきの目を覆っていた自分の手を離して、たまきの肩を揺する。
「ブレーキ! ブレーキ!

「風が気持ちいいー」
「頼むから目を開けて!」


 たまきは笑っていた。
 彼女 一人だけならどこまででも行けるだろう。

 でもどこかでブレーキをかける必要がある。
 沙智はどこまでも乗り合わせることになると思った。