2016年1月9日土曜日

たまき特派員の事件簿ⅰ

「かっ… 会長が先輩のこと悪人だなんて言う!」
 たまきは部室に入ってくるなり怒鳴っていた。

「なんだ? 藪から棒に。落ち着けよ」
 響 里伽子は浅い眠りから覚める。イスに深く腰掛けて、長い足と細い腕を組んでいた。徹夜明けでうたた寝をしていたところだ。
 祝日であっても学校に出てきて、さらに部室を私物化する響にとってはここはまさに自分の部屋のようなものだ。だから昨夜のように部室で記事を書いて夜を明かすことは日常茶飯事だ。

 響はチラリとたまきを片目で見て、また目をつぶる。

「いや、聞いてください! 警察に突き出されでもしたら!」
「穏やかじゃないな…。江ヶ崎が何か言ってるのか?」

 響は否応なしに顔を上げるのだった。切れ長の目がたまきを射抜いた。響の頭は既にクリアに覚醒している。
 寝起きはかなり良いほうだ。スリープからすぐに復帰できる。

「目安箱がなくなってたんです! 生徒会への要望の書いてあるアレですっ」
「なるほど、盗難事件か。ネタになりそうだな…。で、何を言われたんだ?」
「会長が言うには先輩が持っていったんだろうって! 濡れタオルです!」
「あぁ、確かに… 中身を全部見せろと江ヶ崎に言ったことがあるが、濡れ衣だな」
「それです!」




「先輩が疑われるなんて許せなくて、あたし取材もせずに帰って来ちゃいましたよ」
 たまきは部室に足を踏み入れて、席に着く。
「いや真面目に部活動に励んで欲しいんだが?」
「でも盗難事件はおもしろそうですよ!」
「聞く価値があれば聞くよ」
「先輩のお耳に入れておもしろくない話なんて、こんなに急いで持ってきたりしませんっ」

 ペットボトルの緑茶を一口 飲む。やっと落ち着いて話しだした。

「昨日 帰るまでは職員室の前にあったそうです。しかし今朝 職員室に寄ったときに見たら失くなっていたと」
「…一晩の内に誰かが持っていったというわけか?」
「らしいです」

 たまきは鼻息を荒くする。
「あんなものの中身なんて役員じゃなきゃ興味ないですよ」
「私は見てみたいがね。人が何を不満に思っているのか、玉高の何を変えたいと思っているのかジャーナリズムの基本だろう」
「そうですね! やっぱり、あたしも興味ありますっ」
「別に無理しなくてもいいぞ」


 自分が疑われる理由が薄弱だ。響は薄く笑みを浮かべる。

 江ヶ崎は同じクラスで浮動分子である響のことを気に食わないと思っているらしい。
 だが、証拠も何もないし、この程度で警察が必要になることもないだろう。

「それで たまきは誰が持っていったと思うんだ?」
「…先輩が怪しいと思っていました。…ちょっとだけですよ?」
「私は無断で盗ったりしない」
「わかってますっ。でも会長があまりにも先輩を疑うので…」

「たまきには会長の取材を頼んだんだったな」
「はい。それで生徒会室に行ったときに凄まれました」

「そうか。警察は呼んでやるなよ、たまき」
「呼びませんよ。連絡先 知らないですから」
「…ならいい」
「会長は脅してました。早く出せと。どこに隠したんだって」
「たまきは素直な人間だな」
「えへへっ」
「褒めてるわけじゃない」


 響は再び目を閉じていた。
「もう一眠りする」

「先輩っ!?」
「情報収集でもしてきてくれ。情報量が不足してる。ニュースとして取り上げる価値があるのかも判断つかん」
「わかりましたっ」

「特に江ヶ崎に聞くといい。私が祝日にも学校に来ているから犯人だと思っているんだろうが、昨日は江ヶ崎自身、どうして学校に来て職員室に行ったのかをな」

「はぁ… 部活動してる生徒はけっこう学校に来てますよ? あ、でも職員室って誰も居ないですよね。何の用があったんでしょう?」

「知らんよ。江ヶ崎に聞けばわかるだろう」

「そういうもんですかね?」

 たまきは忙しなく部室を飛び出していった。