2016年1月30日土曜日

文学少女、戸惑いと微笑

 友情をテーマにした本を読んだ。小難しい本だ。いろいろと想像しながら読んだし、友達をたいせつにする主人公の気持ちも解るが、全体的な感想としては『よく解らない』だった。

 私には友だちがいないからだ。

 今まで友だちだと思う人もいなかったし、話しかけてくる人と会話が弾んだ試しもない。どうやったら友だち同士になれるのかも知らないし、そもそも友だちなど必要ないものだと思う。
 特に妹の友だちを見ているとそう思えてならない。
 彼女は勝手に家に入ってくるし、嵐のようにやってきてスカートをめくっていったりする。お弁当のおかずを盗み食いすることもあった。友だちでもない私にもそうやってちょっかいを出してくるあたり害毒のような存在であることには間違いがない。
 だから、妹の友だちについていかに迷惑な存在なのかを書きなぐってみた。面と向かって迷惑だとは言えないのだけれど、日記などに気持ちを発散させていたのだ。

「あっちゃん もうすぐご飯だよ」
 紗智が顔を出す。
「…ん」
「何を見てるの?」
「えっと…」

 聞かれてもそれが何なのかは私には解らない。私は部屋の中央に立ち尽くして何度も考えていた。表情を無にして考え続けた。考えても自分でも何を見ているのか解らなかった。

「…手伝ってよだって。お母さんが」
 紗智は部屋に入ってこようとせずに用事だけを伝えていった。何を見ているなどと質問したわりにはあまり興味がなかったようだ。彼女にとっては取るに足りないものだからだろう。何を見ているのかが解ったところで「ふーん」と返すに決まっている。それはそうかも知れない。思うにそれぐらいの価値しかないものなのだと、手に持っている紙切れを見つめる。
 どうしてこんなことになったのだろう。
 本なんか読んだからだろうか。不可解な『友だち』について考えを及ばせていたからかも知れない。
 本棚に並んだ本に目を向けてみる。ベッドの上に積んである本を眺める。地震があったら崩れて埋もれてしまう量だ。ぼんやりと片付けなくちゃと思ったけど、その前に床に散乱した本を片付けなくちゃと思った。しかしその前に電子書籍でまだ読んでない本があったなと思い直した。
 そういえばお気に入りの作家の本が今日 発売されて本屋に並んでいるはずだと気づいた。考えすぎて忘れていた。重要なことなのになぜ忘れていたのだろうか。後で買いに行こう…。

「あっちゃん?」
 キッチンからママの声が響いてくる。
「は」
 私は制服を着たままだったけど部屋を出る。


 リビングで紗智がテレビゲームに興じている。
「あっちゃん、お皿出して」
「うん」

 私を呼びに来るくらいなのだから紗智がママの手伝いをすればいいのにと思った。
「まだ着替えてなかったの?」
「ママこれ…」

 持ってきた紙切れをママに渡す。一応 親には報告の義務があると思ったまでだ。
「何よ」
「もらってきた」
「…」

 ママは紙切れを手にとって見つめる。カレー鍋の中におたまを突っ込んだままだ。

「すごいじゃない。ご飯よそってくれる?」
「え」

 私はママの言う通りに器を用意して炊飯器の前に立つ。私にとってだけではなくママにとっても紙切れなのだろうか。
「…」

「あっちゃん、少なめでいいからね」

 紗智がリビングからこちらも見ずに叫んでいた。多めに入れてやろうと思う。


 テーブルにサラダやカレーライスが並べられて、みんなが席に着く。
「それ何だったの?」
「知らない」
「見せてよ」

 紗智は丸まった紙切れを取り上げた。テーブルの上にぞんざいに置いておいたのだ。

「これ、あっちゃん もらったの?」
 紗智が紙切れを覗き込む。
「賞状じゃん! すごいっ、あっちゃん すごい!」
 紗智は目を丸くしている。
「別に…」
 私は無表情を保つ。

「すごいよ。帰ってきてから着替えもせずに部屋でニヤけながらずっと見てるから何かと思ったけど、やるじゃんっ」
「…え」
「読書感想文? あの『たまきみたいな友だちは迷惑だ』みたいなこと書いたやつでしょ。持つべきものは友だちだね」
「あれは… 違う」
「たまきには飴とかあげればいいよ。喜ぶと思う」

 紗智はそれだけ言って何ごともなかったかのようにカレーライスを食べ始める。私は顔がニヤけていないかさわってみた。やはりよく解らなかった。