2016年1月16日土曜日

たまき特派員の事件簿ⅱ

「先輩っ ダメです! やっぱり先輩が悪人だって!」
 たまきは部室に戻ってくるなり喚き散らす。

「…今度はなんだ?」
 響 里伽子はうたた寝から覚める。窓辺に立って陽向ぼっこをしながら目を閉じていたのだ。仕事に取り掛かるのはまだ後で構わない。

「先輩、寝てたんですか? コーヒーカップを持ったまま?」
「ああ」
「さすがです」
「何の話だ?」


 響はたまきに向き直ってカップを机に置く。席についてノートパソコンを開きニュースサイトの記事を読み始めた。

「だから落ち着いちゃダメです先輩! 疑われてるんですっ」
「何だ? 目安箱の件か? 江ヶ崎が自白でもしたのか?」

「えっ!? 会長が犯人だったんですか!? 会長はそんなこと言ってませんでしたよ」
「そうか、もし本当に犯人だったとして素直に認めるわけもないだろうがな」

「でも会長だって怪しいですもんねー」
「だからってそのまま言ってないだろうな? 前々から言っているがこっちの手の内を明かすなよ。質問の仕方で取れる情報の質も変わるのだから」
「大丈夫です。『敵に話の焦点を絞らせんなっ』が鉄則だって教わったんで」
「ならいい。一服したらもう一眠りするか…。起こすなよ?」
 
「いえっ だからダメです! 会長はまだ先輩のことを疑ってますってばっ」

 たまきはツカツカと歩いてきて、向かい側の席に座って拳を握り締める。大方、江ヶ崎に丸め込まれてきたのだろう。響はため息をついてノートパソコンを閉じた。



「ちきしょうっ 覚えてやがれって言って、逃げ帰ってきた次第です」
「そうか」

「会長は先生に頼まれた仕事を遂行するために、シュショーなことに職員室に行ったそうで。花に水やりに行ったって」
「あからさまな思いつきに聞こえるな」

 朝方のたまきの話を重ね合わせる。

 昨日、目安箱が盗まれた事件だ。昨日の夕方から今朝にかけて盗むチャンスがあるのは響 里伽子だけだというのが江ヶ崎会長の主張だった。加えて響が目安箱の中身を見たがっていたということが大きな理由だ。
 しかし江ヶ崎 自身はなぜ祝日の職員室に居たのか。響からすれば盗むチャンスがあるのは江ヶ崎も同じことなのだ。

「わたくしには動機がありませんわって。そもそもこっちは目安箱の中身を自由に見れる立場にあるのですよって! まったく盗っ人猛々しいったらありゃしませんわって!」
「江ヶ崎に必然性がないのはわかってるさ。だから調べてこいと言っただろう。調べてきたんだろうな?」

「…は、はい。まずは仕事を頼んだ先生に裏取りしてきました。カネコ先生、32歳 独身女性。切手集めが趣味で婚活で80連敗中の…」
「要点を言え」
「カネコ先生は自分の机に観葉植物を置いてるんですが、先生は前日に水をやり忘れていることに気づき、部活で出てきていた会長に水やりを頼んだそうです」

 メモを片手にたまきは説明する。

「江ヶ崎の奴、部活動もやっていたのか」
「会長はバトミントン部も両立してやってるそうで」

「それで?」
「会長はメガネの秀才ですけどスポーツもできるんですねー」
「そっちじゃない」
「あ、先生は普段はきちんとやってるんですが、たまに抜けてしまうことがあるってぼやいてました」

「あとは?」
「なんかドロボウは許しませんって怒ってましたねー」

「…他の部活で出てきてる顧問の先生方だっているだろうに、江ヶ崎に頼むものかな」
「会長はそういうのを気軽に頼める仲だって言ってました。カネコ先生も実際に頼んだと言ってました」

「ふむ、職権乱用に聞こえるが、まぁいい。現場は見たのか?」

 響は一度 目をつぶって考えてからコーヒーを啜る。

「スマホで撮ってきました。これです」
 たまきが差し示す画像には埃の溜まった台座に四角い跡が残っている。

「掃除が行き届いてないみたいですねー」
 たまきの指先が画面にふれて画像が切り替わった。

「…妙だな」
「何がです?」


 画像は響がシャワーを浴びている絵になっていた。
「あ、これは記念にと思いまして」
「堂々と正面から撮っているから盗撮とも言えん」
「はいっ。見たかったので堂々と撮りました」
「構わんがな」


 響は立ち上がって窓辺に佇む。
「ふむ、わからんな…。たまき、もう一度 カネコ先生に話を聞いてこい。目安箱が盗まれた件は話してないんだろう?」
「はい」
「なら何で知ってる?」
「…なんででしょう?」

「先生か江ヶ崎だ。そうでなければ両者共にだろう。そのどれでもなければ、私が盗んでいったんだろうな」
「先輩は犯人 違います!」

 たまきは駆け出していった。

 つまらない事件だと思いながら響は目を閉じる。