2015年12月26日土曜日

雨にしては濡れていなかった

 傘を差して歩く雨の帰り道が好きだ。
 雨粒がポタポタと傘を叩く音がいい。透明なビニール傘じゃダメで、前が見づらくても色柄があったほうがいい。顔を伏せていられるから。視界が悪くなって危なくても、自分だけの空間が作れる気がするし。
 それも遠い現実に思えた。


 私は学校を出るとき傘立ての前でしばし立ち尽くしたのだった。 
 傘が失くなっていたのだ。

 顎に指を添えて、目の前に落ちる雨を見つめる。心地良い音だ。
 弱い雨脚で助かった。ビショビショに濡れなくて済むから。雨にしてはずぶ濡れにならずに済んでいる。
 視界は悪い。下を向いて歩いて水溜りを避ける。

 何かパズルのピースが一つ欠けている感じだ。 
 ショックで考えがまとまらないけど、帰り道を歩きながら私はやはり考えていた。


 考えられることといえば私のことだから、そもそも持ってくるのを忘れてしまったということぐらいだろうか。ぼーっとしているなんて言われることも多いけど、いくらなんでもそんなはずはない。今朝は晴れていたけど傘を持って家を出た記憶がある。
 これでも抜け目ないところがあると自覚しているのだ。

 では他の可能性として誰かが間違えて持っていったということかも。例えば紗智やたまきの顔が浮かんで、あり得なくもないと思う。繊細さを欠くあの二人なら容疑者として疑われても仕方ない。
 紗智は家を出るとき傘を持っていなかった気がする。晴れているときはテコでも傘を持っていかない主義だ。
 たまきなどはモノに執着がないからノールックで傘に手を伸ばす絵が容易に浮かんでくる。
 彼女たちは部活や委員会でまだ学校だろうか? であれば疑うこと自体、不毛だった。

 考えにくいけど第三者に盗まれたという可能性はあるだろうか?
 考えたくはなかった。
 不均一な水玉で、濁った色の可愛くない傘だ。そんな傘を誰が盗るというのか。誰にも盗られないようにあえて選んだデザインなのだ。

 どこへ行ったのだろう。今も誰かが差しているのだろうか。
 犯人が誰かなんて追及するつもりはないけど。

 記憶が混在していた。
 私は傘を差して歩いていて雨音に耳を傾けている。
 そのせいか濡れずに済んでいるような気がして、それが間違いであることに気づく。

 傘を盗られたというショックは、その後のすぐに見つかったという安堵を凌駕していたらしい。

 傘を差している自分に気がついて、私はようやくショックから立ち直るのだった。