2015年12月19日土曜日

活字馬鹿

 よほど本が好きなのだろう。
 毎日同じ服を着た30代ぐらいの冴えない感じの男だ。
 季節の変わり目に服装が変わるだけでほぼ毎日同じ格好だった。
 ぐるりと店内を一回り。
 気になる書籍や雑誌を手に取っては流し読む。
 彼は飽きもせずああして毎日ここへ通っている。
 雨の日でも、祭日でもとにかく日課のようだ。
 私も同じように本が好きだ。
 妙に親近感さえ覚える。
 私の場合は仕事なので毎日通っているが、それでも一月に一度か二度の休暇は取っている。
 休みの日は決まって読書に始まり読書に終わるといった活字中毒者だ。
 だが仕事でなくて本屋に行くのは、やはり毎日通うのというのは飽きるだろう。
 店の他のスタッフに聞いたところ、彼は当たり前のようだが私が休みの日でも来ているらしい。
 驚異的な本好きなのだろう。
 もしくは本屋という場所が好きなのだ。
 彼は気に入った本があれば一日で五冊以上買う日もある。
 逆に何もなければ何週間も買わないでいるときもある。
 夜になってからしか来ないから、昼間は仕事をしているのだろう。
 あるとき、私は彼に話しかけてみたくなった。
 常連客であるし、毎日顔を合わせているわけだし。
 恐らく近所に住んでいるのだろうし。
 なんとなくウマが合いそうだとも思った。
 彼が気に入ったらしい三冊の本を手に取ってレジに持ってきたときだ。
 
―いつもありがとうございます。

 彼が小さく会釈を返してくれた。
 私は何だか嬉しい気持ちになる。
 サービス業をしていてる者の、人と接することの喜びという奴だろうか。
 それとも別の何かなのかも知れない。
 彼は私の目を見てすぐに逸らした。
 手早くレジを済ませると、彼は照れたようにして店を後にした。
 私も充分、内向的だが彼にしてみても同じなのかも知れなかった。
 これからも挫けず話しかけてみようと思う。

 ふと、彼は本当に本が好きなのだろうかという考えが頭を過る。
 私は何故か落ち着かない気持ちになる。