2015年12月5日土曜日

本当の気持ち

 あまり気は進まなかった。
 どうしても好きになれないからだ。

 私の主義に反している。妹がどうしてもと言うからこうして出てきてはみたものの、足取りは重い。なぜ、今日でなくてはならなかったのか。なぜ、私を連れ出すのか。文句の一つや二つ言ってやりたい。

「なに? あっちゃん」
「…なんでもない」


 そもそも出不精の私が町に繰り出すなんてことがもうナンセンスだ。紗智はそこらへんのことをなんとも思っていないらしい。
 例えば、紗智は勉強が嫌いで手先が不器用だ。そんな彼女にテスト週間だからって一日中勉強を付き合わせたり、編み物をやらせたりしても うまくいかないだろう。それと同じことだ。紗智は私が人付き合いや外出を嫌うと知っているはず。私を外へ連れ出すなんてどうかしている。

「へ? なに? さっきから」
「…なんでもない」


 繁華街はクリスマスソングと活気に満ちていた。どちらも私の人生に必要ないと思っているものだ。山奥でひっそりと暮らしたいと思う。静寂や健康といった要素が第一で後は蛇足でしかない。紗智からすれば、それは真逆なのだろう。似ていない姉妹だと思っていたけど、いよいよ腹違いの子なのかも知れないと疑ってしまいそうだ。

「なにかあるなら言ってよ?」
「別に… さっちゃんがどうしてもって…」
「ん?」
「言うから来ただけ…」
「んー、そんなに言ったっけ?」
「言ってた」



 小さな店だった。
 パステルカラーの看板と西洋風の店構えで雰囲気は満点だ。申し分ない。魔法使いの従魔のような二本足の黒猫がコックの恰好をしている。ブリキのおもちゃでコミカルな表情。
 私は周りを見回してから、紗智が入るのを確認してから、木製のドアを開けて中へ入る。
 カランと重そうな鐘が鳴った。
 不思議な心躍る世界観が広がっていた。
 レンガと木で構成された店内は時が止まっているかのようだ。ノイズの混じったスロージャズに落ち着いた照明。アンティークのテーブルについて居心地の良さに感心する。

「あっちゃんこのケーキ嫌いだよね?」
「別に… うん… あんまり…」
「あ、こっちのマロン乗ってるやつがいいんじゃない?」
「まぁ 普通?」
「私はこのチョコでまぶしたやつでいいや」
「ふーん…」
「他のがいい?」


 メニュー表にはメルヘンチックなフォルムのケーキが並んでいる。どうしても好きになれない。
「いや。…仕方ないから食べるけど…」

「顔がにやけてるよ?」
「うん?」

「素直に好きって言えば?」
「さっちゃんが来てって言うから… 付いてきただけ」
「あっちゃんの誕生日でしょ」


 私は窓の外を見て、紗智の言い訳を聞き流すことにした。