2015年11月14日土曜日

親友に捧げる思い

 珍しく たまきが困っている。

 眉毛をハの字に曲げて、泣きそうな表情だった。いちご牛乳をストローで吸い上げながら。
「これ食べる?」
 カバンの中から あんドーナツを取り出して紗智に差し出した。
 彼女なりの贖罪の気持ちの現れなのだろう。

 いつもなら昼食後のお昼寝タイムの時間でこんなに殺伐とすることはない。
 食堂には貴重な休み時間を浪費する学生たちがたむろしている。紗智とたまきも同様に二人で隅のテーブルを占拠していた。陽だまりができて居心地だけはよい。

「嫌がらせなの…? そういうのいいから」

 紗智は気だるそうにテーブルに突っ伏したままだ。

 たまきは哀しそうな目で紗智を見ていた。

 罪悪感が広がっていく。
 たまきに対して許せないと思う気持ちはある。彼女が悪いわけではない。たまきは普通に昼食を取っていただけだ。しかし紗智の思いは伝えているはずだ。お灸をすえる意味でも怒っているポーズは必要だ。

「あんたはね… ずれているんだよ。ずっと」

 紗智はたまきに教えてやる。幼いときから そうやって たまきがふざけて、紗智がたしなめるなんて方程式が成り立っている。
 たまには心配させてやればいい。

「わかった。バナナのほうが好きだったよね」
「別にいつも好きで食べてるわけじゃ…」
「あげる」

 たまきはカバンの中からバナナを一本 取り出した。あんドーナツは包装を破って既に自分の口放り込んでいる。悩んでいる親友の目の前でノーテンキに食べてみせるのだ。贖罪よりも憐憫なんだろうなと紗智は思った。

 無限の量のおやつが入っているカバンである。昼食よりも多い。
 紗智は根本的な考え違いをしていたのかも知れないと思った。

「別にあんたに期待した私がバカなんだけど、でも ずるいよ… たまきばっかり…」
「えっと… 力になれなくてごめんね? お煎餅とかもあるからね?」

 たまきはバナナを剥いて食べ始めていた。

「私がダイエットしてるって知ってくれてると思ってた」


「あぁ… ちゃんと覚えてるよ」
「だったら… 昼食はしばらく別々がいいと思うんだ。私はバナナ一本だけだし。たまきはご飯をやたら美味しそうに食べるし、私の二倍は平らげるんだからさ」

 紗智は太らない体質ってあるんだなと たまきを憎たらしく思う。

「ダメだよ。さっちゃんを一人にしちゃ」
「なんでよ?」
「あたしもダイエットしてるんだけどなー。さっちゃんも食べてくんないと太っちゃうよ」

 たまきはカバンからメロンパンを取り出していた。

「…ごめん。私のほうが間違ってた…。それ食べていいよ」
 紗智は痛感していた。

「…うん。…え?」


 いろんな意味でかけがえのない親友なんだと認識を改めよう。紗智は目を閉じて眠りに落ちていった。