2015年11月7日土曜日

そんな友達なんて居なかった

 私が小さい頃に出逢ったその娘は、いつの間にか私の前から姿を消していた。

 幼なじみで、毎日 陽が暮れるまで公園で遊んでいた記憶がある。不思議なことに紗智はその娘のことをまったく覚えていないという。紗智も同じ場所に居たはずだったのにな。
 私が何を言っているのかずっと理解できなかったらしい。
 その娘は突然の転校なのか大きな病気をしてしまったのか、とにかくあの日以来 一度も会うことがなくなってしまった。

「ヘンテコなこと言うよねぇ。あっちゃんって、ときどきアッチの世界 行っちゃうよねー」
 紗智はこたつに入ってせんべいを囓りながら眠そうな目つきで私を批判した。困った姉を見る目だ。

「あっちって… どっち…」
 私は熱い緑茶を啜って批判に耐える。なんとでも言えばいい。この妹には姉に対する尊敬の念も遠慮もない。だけど今さらたしなめることもない。言わせておけばいいのだ。

 ママやパパはハッキリとは言わないけど、そんな幼なじみなんてやはり居ないんじゃないかと顔に出ていた。幻を見ていたのではないかということだ。幽霊や幻覚、記憶違いがあるのかも知れない。それでも私は確かに遊んだ記憶がある。記憶の改竄かも知れないが確かに居たはずだと思う。
 私が言い張るからママもパパも困った顔をしていた。

 突然 居なくなったのは私にも問題があったとも考えられるだろう。
 砂場でママゴトにリアリティを求め過ぎて泥団子を食べさせようとしたことや、私がやめようとしないからいつまで経ってもシーソーから降りられずに泣かせてしまったことが、もしかしたら原因の一端を担っている… とも考えられなくもない。ような気がする。
 その娘の親が私に会わせないようにしていたと考えればありそうな話だった。

 だけどその可能性は低いと思っている。
 紗智はそもそも会っていないのだしママだって見えていないのだ。
 やはり幽霊か何かの類で私だけが見えていた架空の友達だったのだろう。

 誰にも見えない女の子に向かって私は話しかけていた。
 紗智はそれをぼんやりと見ていたんだ。

 小さな公園を夢の国に見立てて遊んでいた。
 メルヘンチックな子供の頃のおぼろげな記憶。

 学校からの帰り道に公園に立ち寄ったとき、シートのかけられた砂場や古くなり危ないからといって撤去されてしまったシーソーを見て哀しくなった。
 今頃どこで何をしているのだろう。
 あんなにしっかりと手を握って引っ張り回したのに。あんなにしっかりと目を見て友達だって言ったのに。あの娘は私の手を繋いで泣いていた。

 今はもう居ないんだ。

「そう言えば昔、あっちゃんって ずっとそんなこと言ってたね」
「友達が居なかったから」

「ずっと何 言ってるんのかわかんなかった」
「嬉しかったんだと思う」

「いや妹のこと なんだと思ってたんだって話だよ」
「え…? ごめん?」

 紗智が怒っているみたいだったから思わず謝ってしまう。

 遠い記憶がうやむやに消えていくのだった。