2015年9月5日土曜日

孤独が欲しい

 声を出してはいけない。

 それが課せられたルールだからだ。

 視線を投げてはいけない。

 私の世界にもルールがある。

 そうだ、目をつぶっていよう。私は石になる。
 本を読んでいるふりをしていよう。
 そうすれば他人と関わらなくて済む。声をかけられないで済むはず。現実を遮断できるはず。孤独でいいんだ。

 孤独が欲しい。

 孤独になれるその場所で。

「ふん♪ ふん♪」
 モンスターだ。鬼が忍び寄る。好奇心の塊のような奴だ。

 見つかれば私は彼女に喰い尽くされるだろう。
 恐怖心が勝る。
 何とか一人にして頂けないものか。

 いつだったか環が私の前に現れて、馴れ馴れしく引っ付いてくるし、後輩のくせにちゃん付けで呼んでくるし、不躾(ぶしつけ)に私の目を覗きこんでくるし、スカートも捲(めく)られて覗かれるし、夏休みの宿題を手伝わされたこともある。
 心をかき乱される。
 調子が狂うのだ。
 傍若無人(ぼうじゃくぶじん)で、自分勝手で、それでいて何がおもしろいのか解らないのに笑い続ける、住む世界の違うモンスターのようだ。
 心臓が跳ね上がる。
 彼女に見つかってしまえば、私は彼女のルールに従わざるを得なくなる。私は環の作ったルールに抗いたい。

 紗智が言っていた。
 「あっちゃんは協調性がないよね」と妹のくせに私のことを冷静に分析する。妹のものさしで測れる私ではない。
 そう言えば紗智もちゃん付けで呼んでくるのだ。
 環にしても紗智にしても、私のことを孤独から引きずり出そうとしてくるわけで、余計なお世話である。

 孤独は悪いことじゃない。
 自分と向き合う時間は たいせつ なこと。

 でも、まあ私の悪いくせは、闇に隠れ潜み過ぎること。
 そんな私に手を差し伸べてくれる。環の無邪気さに救われている部分もあるのかも知れない。


「あっちゃん みーっけ!!!」

 背後からスカートを捲られていた。

「次、あっちゃんの鬼ね!」
「ここ、図書室だから静かに…」

 環は私の注意も返事も待たずに てってってっ と走り去っていった。
 いつの間にか私は彼女のルールの中にある。
 孤独になりたい。