2015年8月22日土曜日

環はそれでも響先輩が好きだ

「先ぱいっ。写真 撮っていすか?」
「好きにしろ」

「好きになりますっ」
 環は取材用のカメラを響に向ける。

 部室は二人だけだった。
 夕陽が差し込んでくる。力強い目。自信に満ちた口元。長髪が優しい風で揺れる。机に手をかけて佇む響は輝いて見える。
 それだけで写真を撮る理由になる。

「自分のカメラで自分を撮られる日が来るとはな」
「はい。まかろにぃ」
 カシャッ

 通信クラブは響が一人で興し、エネルギッシュに活動してきた。
 生徒会に切り込み、野球部の横領を暴き、部室棟の増設運動を煽(あお)って。

 ジャーナリズムは殺せないと響はよく言っていた。
 ペンとカメラは人を動かして、世界をも躍動させる。
 常に力強い切り口で全校生徒に問いかける。
 環は入学してからずっと そんなパワフルな響を見てきた。
 だから環は響の写真を撮りたいのだ。

「ところで、どうして君は体操着なんだ?」
「はい。部活動ですので。おかしいですか?」
「いや訊いただけだ」
 響は環を見て笑ってくれた。
 自信に満ち溢れた表情。

「まちがってますか?」
「いや、取材活動は力仕事だからな。君の方が正しいのかも知れない」
「では先ぱいも ぜひ体操着にっ」
「自分のスタイルがあるからな。譲れないところだ」
「はいっ。制服姿、素敵だと思います」
「ありがとう」

 環は嬉しくなって笑顔になる。
 響の体操着姿は諦めるとしよう。

「もう一枚いいですか?」
「ああ、好きにしろ」
「好きになりました!」

「よっぽど写真が好きなんだな。君はカメラマンに向いているかも」
「じゃあカメラウーマンですね!」
「それは呼びにくい。フォトグラファが正解だろ」
「ではウーマンということで」
「なるほど それなら呼びやすいな。好きにするといい」

「好きです!」
 響先輩とならどんな障害でも乗り越えられると環は確信する。

「先ぱいっ。あたし玉高通信がんばります!」
「ああ、せいぜい がんばるんだな」
「あたし立派なウーマンになります!」
「君なら なれるよ。2つの意味で。せいぜい立派な写真を撮るといい」

「先ぱいも一緒に!」

「私は既にウーマンしてるよ。そのカメラを使ってな」
 
 カシャッ

「それでも好き!」
 環はただ、ファインダー越しに映る響に心奪われる。