2015年8月1日土曜日

真冬の定点観測

 なかなか離れられないものだ。
 二人とも依存しているのかも知れない。


 「あ! さっちゃん、流れ星!」  
 たまきは、身動きのとれないまま大いにつぶやいた。
 彼女はもうずっと同じ姿勢のままだ。

「え、どこ?」
 沙智も、身動きのとれないまま聞き返す。 


 最後の夜。
 このままだとまずいなと思うけど、無情にも時間だけが過ぎていく。
 
 たまきは「願い事しなくちゃ」と沙智の方を一切 見なかった。
 どんな状況でも無意味に明るい。

 だいたいコイツは昔から自分勝手でワガママで、人の話を聞かない奴だ。
 自分に欠点がないわけじゃないけど、それを差し引いてもコイツは見過ごせない欠点だらけだ。
 たまきは自堕落に生き過ぎなのだ。

 沙智はそれでもこの古い友人と一緒に居る。
 もうずっと離れられない。

「願い事… 願い事…」 
「え、え…どこ!?」 
  沙智が暗い夜空を探しても、そこには暗い夜空だけがあった。

ブツブツ… ブツブツ…」 
「見えないし!」 

「遅いよ〜」
「どこか言いなさいよっ」
「もう行っちゃったよ〜」
「自分だけ願い事!?」

 暗い夜空。 
 曇っていて星はわずかしか見えない。

「…なに、お願いしたの?」
「秘密」
 願い事を流れ星に伝えたのは結局、たまきだけか。
 

 凍える夜だった。
 それならコイツの願い事は温かいスープを飲みたいとかだったかも知れないなと沙智は思う。
 自分がそうなのだから当たらずとも、そう遠くないだろう。

「あぁクラムチャウダー食いてぇなぁ」
「…」
 沙智は願い事は叶うとは限らないんだと知る。

「買ってきてよぉ。コンビニじゃんけんしよぉ」
 たまきはテーブルに顔を伏せたままつぶやく。
 沙智は寝転がったままたまきの言葉を流した。

 もうどれだけの間、こうしてジッとしているだろう。
 早くここから抜け出さないといけないのに。  


 二人はそれでも闇を見続ける。 
 頬をテーブルに引っ付けて勝手なことをつぶやくたまき。

 視線の先には凍てつく夜空。
 寒さは感じない。
 むしろ暖かさを感じている。

「あっ。わし座が見たい!」
「冬だよ、今」
「夏の野菜だって冬に食べれる時代じゃん」
「…季節感ないな、お前」
「ブツブツ… え? なに?」

「これ、どこの中継だろう…?」
 沙智は姉なら何か知っているかもと思った。
「…みかん食べたいなぁ」

 明日からは冬休みが明けて、また学校が始まる。
 いつまでもこうしてはいられない。 

 早く風呂に入って寝てしまおう。
 お泊り会を言い出したのはたまきだ。
 こうなると解っていたけど、結局のところ沙智は受け入れてしまう。
 そうやって二人はずるずると今までやってきたんだ。

 
「明日早いんだから、風呂入ってきなよ」 
「先輩との恋愛がうまくいくといいな」

「…なにが?」
「願い事の話だよ〜」
「秘密じゃなかったのか」 
 暖かい部屋の中。 

 こたつに依存しているのはたまきもやはり同じらしかった。
 離れたくないんだろう。
 どちらも抜け出せないままだった。

「聞きたい? 言わないけどね〜」
「それは恋話を今から言いますよと受け取るけど?」

 パソコンのモニターに映る夜空。
 定点カメラによる天体観測を肴に、いつまでも二人の少女の夜更かしは続く。